風の匂いの中に

『我らは神の中に生き、動き、存在する』(使徒言行録17:28)

本、思索、文学、宗教、聖書

どこに愛があるというのか!ーガルシア・マルケス『百年の孤独』3

このところ世界各国で同性婚が取り上げられてきているが、『百年の孤独』の最初から最後までを貫いて横たわっているのは近親婚の禁忌である。 古い集落で共に育ったホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラ・イグアランはいとこ同士で結婚するが、母親か…

どこに愛があるというのか!ーガルシア・マルケス『百年の孤独』2

…、ある暑さのきびしい水曜日のことだった。籠を持ったひとりの年配の尼僧が屋敷を訪ねてきた。戸口に出たサンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダは、てっきりただの届け物だと思い、美しいレースの布をかぶせた籠を受け取ろうとした。ところが尼僧は、フェルナンダ・…

どこに愛があるというのか!ーガルシア・マルケス『百年の孤独』1

やがて迎えた三月のある日の午後、紐に吊したシーツを庭先でたたむために、フェルナンダは屋敷の女たちに手助けを頼んだ。仕事にかかるかかからないかにアマランタが、小町娘レメディオスの顔が透きとおって見えるほど異様に青白いことに気づいて、「どこか…

死が立ちはだかっている

死と同じくらいに自分ではどうすることも出来なかったーマルケス断章

お前たちの愛は朝の霧 すぐに消えうせる露のようだ。(ホセア書6:4) ドストエフスキーが愛せないと苦しんだ時、そこには死が立ちはだかっていただろう。けれど、私が愛せないと苦しんだのは、そんな高尚なものではなかった。 振り返ると、すぐ目の前に氷…

死ぬべきものがーマルケス断章

ガルシア・マルケスの初期の作品に『青い犬の目』という短編集がある。この短編集を読んで一番に頭に浮かんだのが、「死」という文字であった。『百年の孤独』に見られるような豊穣さは全く感じられず、硬く、ひたすら「死」について思いつめているような、…

「知る」ということーマルケス断章

ある時、夕食の足しにお総菜のカキフライを買って来た。 娘は食べないので、よそい分けもせずに夫と二人で食べるのにパックのまま出した。 タルタルソースを夫は全部のカキフライにかけて、残ったソースを「もう使わない?」と私に尋ねてきた。それで私は、…

『博士の愛した数式』とティリッヒ神学

『博士の愛した数式』小川洋子=作(新潮社)については何も私が書く必要はないだろう、そう思えるほど世の中に知れ渡っている小説だと思う。だから内容についてはとても良かったとだけ書いておくことにしよう。この博士の愛した数式がティリッヒの神学を表…