甲状腺ホルモンやβ2カテコラミンは細胞膜のNa/K ATPaseを活性化して、Kの細胞内移動を促進する。甲状腺ホルモンはNa/K ATPaseの数も上昇させる
カリウムの体内動態については、体液のpHと共にずっと考え続けてきたことなのだが、甲状腺と関連してここで少しまとめておこうと思う。
「セレン(セレニウム)について」のリンクの中で、セレンの過剰摂取による症状に「腎不全」が入っていた。
セレンは甲状腺ホルモンT4をT3へと変換する過程で必要とされる栄養素である。
セレンを多く摂取して甲状腺ホルモンが造られると、カリウムの細胞内への移動が促進される。カリウムが細胞内に入れば、同じ一価の陽イオンであるナトリウムは細胞外に出される。
通常カリウムは細胞内に多くナトリウムは細胞外に多いとされているが、甲状腺機能が亢進してNa/K ATPaseが活性化されれば、カリウムは通常よりも細胞内に入り込むこととなるだろう。逆にナトリウムは細胞外に押し出される。
ナトリウムとカリウムのバランスが崩れると腎臓は尿管からナトリウムやカリウムの再吸収を促進させバランスを保とうとするだろう。この状態が長く続けば腎臓は疲弊し腎不全に至ると考えられる。
また、ナトリウムが細胞外から血中に移動し過ぎると、水分を引き込み、それによって血液量が増え、血圧を上げる。
カリウムを細胞内に移動させるホルモンは他にもあるが、それらはどれも血圧を上げるホルモンであるように思われる。
上に抜粋引用した「β2カテコラミン」はアドレナリンの受容体である。アドレナリンはストレスによって分泌される交感神経系の伝達物質である。アドレナリンの分泌によってストレスに対抗する副腎皮質ホルモンが放出される。この時、血圧を上げる。
このために、血中にカリウムを留めるARB系の降圧剤は腎臓を守る働きもすると言われるのだろう、と思われる。
しかし一方で、中村丁次=監修『栄養成分バイブル』には、「ナトリウムが不足すると」、「腎臓が弱る」と記載されている。
これもやはりカリウムとナトリウムのバランスが崩れるためだと考えられる。
通常カリウムは細胞内に多く、ナトリウムは細胞外に多くあるように調整されている。が、ナトリウムが欠乏することで、イオンバランスを保とうとしてカリウムは細胞内から細胞外へ、さらに血中へと出てくるだろう。するとますますナトリウムは細胞内に入ることになる。ナトリウムの方が原子量が小さいので細胞内に入りやすく、またそのためのエネルギーを必要としないからだと考えられる。
しかし腎臓細胞内に入ったナトリウムが再吸収されて血中に戻るためにはエネルギーを必要とする。戻れない場合はナトリウムはそのまま尿中に排出される。するとますますナトリウムは欠乏する。
再吸収して血中に戻そうとすると腎臓に負荷がかかりオーバーワークとなり、「腎臓が弱る」ということではないだろうか。
ナトリウムとカリウムを摂る割合が大事なのだ。減塩したりカリウムをたくさん摂れば良いというものではないだろう。
私の目安は、美味しいと思える塩加減で調理をするということである。
間違ってもカリウムの多い塩や塩化カリウムの塩など使ってはいけない。
ここまで何度も述べてきたように、植物には例外なくカリウムが含まれているため、野菜や果物、それに豆類なら、何を食べてもカリウムを取ることができます。
(中略)
カリウムのサプリメントをつくるのは、実はものすごく簡単です。植物を燃やせば残った灰の中にカリウムがタップリ含まれているので、タダ同然の値段でつくることができます。ただし、そんなものは気軽には売れません。カリウムは健康の維持に不可欠であると同時に、取り過ぎると命にかかわる危険なものだからです。
もちろん、病院にはカリウムの注射液があります。ただし、患者さんに投与するときは量が間違っていないか何度も何度も確認し、ものすごく慎重に注射します。カリウムを取り過ぎると、健康な人であっても心臓が停止し死亡するからです。(吉田たかよし=著『元素周期表で世界はすべて読み解ける』より)