メタロチオネインは、含硫アミノ酸であるシステインを多量に含む低分子のタンパク質で、システインのSH基に金属を結合してその毒性を弱める働きがある。(『亜鉛の機能と健康』p7)
亜鉛の吸収は、銅の吸収と拮抗することがよく知られているが、培養細胞を用いた解析ではZIP4による亜鉛輸送は過剰の銅によってもほとんど阻害されない。一方、小腸上皮細胞の刷子縁膜から食事由来の銅の吸収に機能する銅トランスポーターCTR1も、亜鉛を輸送する活性を持たないことが知られている。したがって、亜鉛と銅の拮抗は、小腸上皮細胞刷子縁膜に局在して食事由来の亜鉛や銅を取り込む輸送経路が競争的に阻害されるのではなく、上皮細胞に取り込まれた後に何らかのメカニズムを介して起こっている可能性が高い。細胞質に発現するメタロチオネインは、亜鉛と銅のどちらにも結合できる性質を持っており、両元素の細胞内ホメオスタシス維持に重要な役割を果たす低分子タンパク質である。おそらく、このメタロチオネインのような分子を介した細胞内の亜鉛と銅の存在量の変化が、刷子縁膜で機能するZIP4やCTR1の発現量を変化させ、結果、両元素の吸収を拮抗させているのであろう。(『亜鉛の機能と健康』p161)
Wilson病患者やWilson病のモデル動物の肝臓内において,蓄積している銅は主にメタロチオネイン(MT)と結合している(72–74)。すなわち,ATP7Bの変異によって過剰に蓄積した銅はMTに結合することによって毒性を発現しない状態で一時蓄積され,この時,MTは銅と同時に亜鉛を結合している。MTタンパク質の生合成限界を超えて銅が蓄積すると亜鉛をほとんど含まないMTとなる。亜鉛を含むMTはanti-oxidantとして防御的に作用するが,亜鉛を含まず銅のみを結合するMTは,さらなる銅の蓄積により,1価の銅を放出するためpro-oxidantとして働き,hydroxyl radicalsを発生させることが肝炎,肝がんの原因となると考えられている(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/69/2/69_136/_pdf)
セレン
水に不溶だが、二硫化炭素 (CS2) には溶ける。また、熱濃硫酸と反応する。燃やすと不快臭のある気体(二酸化セレン)が発生する。硫黄に性質が似ている。(略)
セレンはセレノシステインとしてタンパク質に組み込まれ、主にセレノプロテインとして働く。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%B3)
セレノシステイン はアミノ酸の一種である。
システインに似た構造を持つが、システインの硫黄 (S) がセレン (Se) に置き換わっている。セレノシステインを含むタンパク質はセレノプロテインと呼ばれる。(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%8E%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3)
モリブデンについては、含有酵素に硫黄原子が配位しているキサンチンオキシダーゼや活性部位にシステインを持つアルデヒドデヒドロゲナーゼがある。
キサンチンオキシダーゼ
このタンパク質は大きく、分子量は約270,000で、2個のフラビン分子と2個のモリブデン原子、8個の鉄原子がそれぞれの酵素ユニットに結合している。モリブデン原子はモリブドプテリン補因子に含まれ、酵素の活性部位になっている。鉄原子は[2Fe-2S]フェレドキシン鉄・硫黄クラスターを構成しており、電子移動反応に寄与している。
硫黄
多くの生物の電子伝達系で、硫黄と鉄からなる鉄-硫黄クラスターが働いている(フェレドキシンなど)。また呼吸鎖のシトクロムc酸化酵素の銅中心CuAにも含まれる。
セレンもモリブデンも、また銅も硫黄や含硫アミノ酸のシステインと深く関わっていると言える。
銅排出トランスポーターATP7AおよびATP7Bに銅を受け渡すシャペロンタンパク質の一つである「ATOX1」は、システインを必要とする。
モリブデン等が過剰である場合、システインをモリブデンに使われるために銅が排出されず蓄積されるということが考えられる。
哺乳類細胞における銅の恒常性維持の分子機構
小椋康光 (昭和薬科大学衛生化学研究室)
ATP7Aの欠損症であるMenkes 病では消化管からの銅の吸収が機能しないため,全身性の銅欠乏症状すなわち銅酵素の活性低下を呈する。メラニン色素を生成するために必要なチロシナーゼの活性低下により蒼白な皮膚,コラーゲン形成に必要なリジルオキシダーゼの活性低下により皮膚の過伸展や壊血病症状の骨形成不全,カテコールアミンの生合成に必要なドーパミンβヒドロキシラーゼの活性低下により脳神経機能の低下,エネルギー産生に必要なチトクロームc オキシダーゼの活性低下により低体温などの全身の銅酵素の活性低下からさまざまな症状が出現する。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/69/2/69_136/_pdf)