風の匂いの中に

『我らは神の中に生き、動き、存在する』(使徒言行録17:28)

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死と同じくらいに自分ではどうすることも出来なかったーマルケス断章

お前たちの愛は朝の霧 すぐに消えうせる露のようだ。(ホセア書6:4) ドストエフスキーが愛せないと苦しんだ時、そこには死が立ちはだかっていただろう。けれど、私が愛せないと苦しんだのは、そんな高尚なものではなかった。 振り返ると、すぐ目の前に氷のような眼、蒼白の顔、恐怖で引きつった唇が見えた。深夜ミサの人ごみの中ではじめてそばで彼を見たときと変わっていなかったが、あのときと違って心の震えるような愛情ではなく、底知れない失望を感じた。(ガルシア・マルケス『コレラの時代の愛』) 自…

死ぬべきものがーマルケス断章

ガルシア・マルケスの初期の作品に『青い犬の目』という短編集がある。この短編集を読んで一番に頭に浮かんだのが、「死」という文字であった。『百年の孤独』に見られるような豊穣さは全く感じられず、硬く、ひたすら「死」について思いつめているような、「死」についての答を得ようとしているような印象であった。訳者の井上義一氏も「あとがき」で、「後年の長編『百年の孤独』や『族長の秋』の世界にはこれほど死へのこだわりはない。おそらく若いころのマルケスは死を切実に考え詰めていたのだろう」と書いてお…

「知る」ということーマルケス断章

ある時、夕食の足しにお総菜のカキフライを買って来た。 娘は食べないので、よそい分けもせずに夫と二人で食べるのにパックのまま出した。 タルタルソースを夫は全部のカキフライにかけて、残ったソースを「もう使わない?」と私に尋ねてきた。それで私は、「ソースは、少し囓った後にカキフライの囓り口につけて食べたいから、残しておいて」と言ったのだった。その時の、口がぽかんと開いたような夫の表情が印象的だった。 お店などでカキフライを食べるときは、囓る前に添えられたソースにつけて食べるだろう。…