風の匂いの中に

『我らは神の中に生き、動き、存在する』(使徒言行録17:28)

皮膚に関連した亜鉛とタウリンについての覚え書き

 亜鉛の活躍の場は、皮膚の一番上に位置する表皮です。その厚さは0,1~0,4mm。肌をみずみずしく保つ保湿作用を持ちますが、この表皮は日々変化しています。

(略)

 定期的に正常なターンオーバーを繰り返すことが、美しい肌を維持するためのカギになることはもうご存知ですよね。亜鉛が必要になるのは、まさに細胞が分裂するとき。不足すれば分裂がうまくできず、異常な角質層になってしまいます。すると、潤いのない肌になるばかりか、乾燥肌、サメ肌、ニキビ、アトピー性皮膚炎の原因にもなりかねないのです。

 

(中略)

 

 また、肌は皮脂膜で覆われています。皮脂膜とは、体内の水分と皮脂から出る油分が混ざってつくられる膜で、ナチュラルモイスチャーファクター(NMF)とも呼ばれます。保湿・殺菌作用があり、いわば天然の保護クリームといえるものです。

 この皮脂膜をつくるのは、私たちの肌に棲みついている常在菌。「え?菌が?」と、思うかもしれませんが、この常在菌がいなければ、肌のバリア機能が著しく低下して、カサカサの乾燥肌になるわけですから、「常在菌よ、ありがとう!」と感謝すべき大事な存在なのです。(p34)

(略)

 1日の終わりにはメイクや汗を落とすためにもクレンジングや洗顔料で顔を洗いますが、私は、朝の洗顔は水だけで十分だと思っています。夜の間に常在菌が一生懸命働いてNMFをつくってくれるわけですから、それを洗い流すのはもったいないというものです。(p65)(定真理子 山本博意=著『美肌になる栄養セラピー』)

 

 

最近、角質層の下の顆粒層に存在するタイトジャンクションもバリアとして重要な働きを担っていることがわかってきました(第2のバリアと呼ばれています)。後述するように、ここにタウリンが高濃度に存在しています。紫外線はタイトジャンクションの構造を破壊し、バリア機能を低下あるいは消失させます。タイトジャンクションの機能が低下すると、皮膚のpHが正常な弱酸性から中性へと変化し、これによって角質のバリア機能として重要なセラミドやNMFが減少し、皮膚の保湿能力が低下することが報告されています。

(略)

タウリンの生体内での重要な生理作用の1つが浸透圧調整作用であることがわかり、皮膚の重要な役割が水分調節であることなどから、皮膚におけるタウリンの機能について2000年以降徐々に研究が行われるようになってきました。

 (略)まずタウリンは真皮には少なく、表皮に多く存在していることがわかっています。上で述べたように、角質層のセラミドなどの細胞間脂質とアミノ酸尿素などの天然保湿因子NMFが水分を保持して、肌の乾燥を防いでいます。(略)皮膚が乾燥状態にさらされると、肌の水分含量が変化し、浸透圧の乱れが引き起こされます。このような浸透圧変化は細胞の大きさを変化させ、細胞に大きなダメージを与えます。

 ここで登場するのが浸透圧調節機能を持つタウリンです。一般のアミノ酸にも浸透圧調節機能がありますが、皮膚における分布はタウリンと異なります。タウリンが表皮の顆粒層に多く存在するのに対して、一般のアミノ酸にはこのような特異的な分布は見られず、ほぼ皮膚全体に存在しています。タウリンの分布から、タウリンの浸透圧調節作用を介した皮膚、特に表皮での水分調節への関与が示唆されます。先に述べたように、顆粒層にはタイトジャンクションと呼ばれる第2のバリアが存在していることを考えると、タウリンがタイトジャンクションになんらかの影響を与えたり、顆粒層においてバリア機能の維持や増強に関わっている可能性があります。細胞膜を介したタウリンの細胞への取り込みは、タウリンの運び屋であるタウリントランスポーターと呼ばれるタウリンの輸送体により行われます。皮膚におけるタウリントランスポーターの分布を見てみると、タウリンの分布とほぼ一致しており、表皮の顆粒層で最も多く、表皮の基底層や角質層、真皮では、ほとんど認められません。このことからタウリンは表皮の顆粒層に多く存在し、タウリントランスポーターによって、細胞へのタウリンの取り込みが盛んに行われていると考えられます。

(略)

また細胞培養液にタウリンをあらかじめ添加しておくと、紫外線照射による皮膚細胞における炎症性物質の産生と蓄積が抑制されます。これらのデータから、表皮細胞では紫外線に対して細胞内のタウリンを増加させることにより、紫外線が引き起こす炎症や活性酸素の発生などの有害な細胞傷害作用を抑制し、細胞を保護していることが予想されます。(村上茂=監修、国際タウリン研究会日本部会=編著『読んで効くタウリンのはなし』)